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大阪地方裁判所 昭和58年(わ)4023号 判決

主文

被告人を懲役一年に処する。

押収してあるビニール袋入り覚せい剤白色結晶粉末鑑定残量4.806グラム三袋(昭和五八年押第一〇〇八号の一の一ないし四)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、佐藤隆夫から覚せい剤の入手ができ必要とあれば都合してよい旨の話を聞き込んでいたため、昭和五八年二月一四日ころ、長野市三輪七丁目九番一号グランドハイツ三洋二階三〇六号の自宅付近の郵便局から、大阪市西成区内の右佐藤が指定していた場所へ覚せい剤購入代金三万円を送付したうえに、自宅付近の公衆電話で同人の常駐する大阪市西成区内の事務所に架電して、同人に対し覚せい剤五グラムの購入方を申し込み、同人から承諾を受けるとともに、被告人方へ郵送する旨の譲受方法の指示をも受けたうえで、後日である同月一八日ころから同年三月二日までの間に、右グランドハイツ三洋一階に備付けの被告人用郵便受内に、宛先を被告人方の被告人、差出人を吉岡義明こと佐藤隆夫とする覚せい剤である塩酸フェニルメチルアミノプロパンを含有する覚せい剤結晶粉末4.981グラム(昭和五八年押第一〇〇八号の一ないし四はこの一部である。)在中の封緘した普通郵便封筒の郵送在留を得たものであり、もつて、法定の除外事由がないのに、同年二月一八日ころから同年三月二日までの間に右グランドハイツ三洋において、右佐藤から覚せい剤を有償で譲り受けたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

なお、弁護人は、被告人が本件覚せい剤について現実の握持もしていなければ、覚せい剤到着のころ大阪市内で逮捕勾留されるに至り握持し得べき機会も無かつたので、覚せい剤取締法にいう「譲り受け」たことにならない趣旨の主張をし、被告人もそれに沿う供述をしているところ、前掲各証拠によると、被告人は、当時前示グランドハイツ三洋三〇六号室に内妻伊藤妙子と共に生活し、前示罪となるべき事実のとおり覚せい剤の購入申込をして、申込を受けた前示佐藤は昭和五八年二月一四日に被告人宛に申込内容どおり当該物件の郵送手続をとり、被告人において到着を待つていたところ、届かなつたため、覚せい剤購入の事情を知悉していた右伊藤を伴つて同月一八日ころ大阪に赴き、右佐藤に会つて郵送の真偽を確認していたところ、同月二五日大阪市内において別件覚せい剤事犯で逮捕、勾留され、同年三月二日右伊藤立会いのうえ被告人居宅の捜索を受けた際、右グランドハイツ三洋一階に集合して設置されている同建物居住者用の各戸別の施錠設備のある被告人方専用郵便受内から、被告人宛の長野中央郵便局消印同年二月一六日付の速達普通郵便封筒が発見され在中の覚せい剤の発覚に至つたものであることが認められる。それによれば、本件覚せい剤は、数量、譲受方法が特定されたうえ、被告人宛郵送され、同年二月一八日以降同年三月二日までに被告人方専用空間というべき郵便受内に被告人宛封緘されて留め置かれていたものであるから、郵便受内の在中物として被告人は排他的支配力を有するに至つたものというべく、同郵便受が無施錠であつた場合性質上不法に在中物が持ち去られたりなどして、被告人により現実に握持されることが確実に担保されないということも右支配力の強度の問題にとどまり、支配力を否定するものではなく、覚せい剤譲受けの事情を知る内妻伊藤が被告人不在中に居宅の管理を続けてゆくこともできたという事情をも加えてみるに、被告人において、同年二月二五日以降身柄拘束されていたこと、さらには郵便受内に本件郵便物が在留するに至つた時期と被告人の身柄拘束時期の前後いかんが、弁護人の主張するように被告人の郵便受内の物に対する排他的支配力の成否に影響を及ぼすものではなく、右のとおりの情況においては覚せい剤譲受けの既遂に至つたと認めるのが相当である。

(累犯前科)

被告人は、昭和五三年一二月二七日大阪高等裁判所において窃盗、強盗、事後強盗、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反罪により懲役五年に処せられ、昭和五七年一一月一五日右刑の執行を受け終つたものであり、右事実は検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示所為は、覚せい剤取締法四一条の二第一項二号、一七条三項に該当するところ、前記の前科があるので刑法五六条一項、五七条により再犯の加重をし、その刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、押収してあるビニール袋入り覚せい剤白色結晶粉末鑑定残量4.806グラム三袋(昭和五八年押第一〇〇八号の一の一ないし四)は、判示の罪に係る覚せい剤で被告人の所有するものであるから、覚せい剤取締法四一条の六本文によりこれを没収し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用して被告人に負担させないこととする。

よつて、主文のとおり判決する。

(小原春夫)

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